続・晩冬の眼球譚

前回のあらすじ)
 電車のなかで、眼鏡の片側だけレンズが無い事に気付き、ピンチ。
(前回のあらすじ、おわり)


 さて、そのピンチは、予備の眼鏡を持っていたので、それを装着し、事なきを得る。


 ・・・しかし、と車中、私は考える。

 「眼鏡の片方だけレンズが無い」

 これは一体どういう事態なのだろうか。
 わからないが、私ひとりの身の上に生じた事象として片付けてしまってよいものだろうか。多くの人々に、その意味を、問うべき事柄ではないだろうか。

 勤務地に着いた私は、かけていた予備の眼鏡を外してカバンにしまいこみ、もう一度、片側だけレンズの無い眼鏡を装着した。
 そして、職場のドアを開けた。

 同僚とおはようの挨拶をかわす。今日は私とT氏が日勤担当だ。円陣を組み、夜勤担当から業務引継ぎを受ける。
 誰も、私の眼鏡の右側レンズが無いことに気付かない。
 引継ぎが終わり、夜勤担当(三人)は帰っていった。パソコンの前に座り、ログインする。
 私はおもむろに、T氏の方を向き、
「今日、朝、起きたわけですよ」
 と、今日の朝から、私の身の上に生じた話について、語り始めた。

 ・・・T氏が、私の顔面の事態に気付いたのは、話の中で、ちょうど私がプラットフォームに出てマスクのひもが眼鏡のフレームに引っかかったあたり、つまり、私がそのことに気付いたのと同じタイミングであった。