晩冬の眼球譚

 朝、起きた、わけです。
 夜、寝て、朝、起きる。何の不思議もない。
 ところが、その日は、なにかこう、視界がおかしい。ボンヤリしている・・・ような気がする・・・
 まあ、昨晩寝るのが遅かったですから、睡眠不足かとも思いながら
 ・・・眼鏡を外して、顔を洗って、また、眼鏡をかけて、食パンを焼いて食う・・・
 やっぱりボンヤリしている、視界が、
 霞んでる。
 そうとう、目をパチパチさせて、もう、しばしば、パチパチさせるんだけど、ダメ。
 とはいいつつ、眠いですから「寝ぼけ、かな」と思いながら、ネクタイしめて革靴履いて、最寄の駅まで自転車を走らせたところで、もう、角をうまく曲がれないくらい、
 目がダメ。
 明らかによく見えない。
 「ヤバイな」という気持ちがジワーと心中に滲んできまして。
 駅につきまして、自転車を駐輪し、改札を抜け、プラットフォームに出る。
 ここまで、もう、ほとんど休みなく、目をパチパチさせたりこすったりしているわけです。「おかしいだろ」という気持ちと「ふいに、治らないか」という・・・
 でも割と冷静に「保険証は財布の中にあったかな」と考えている。
 でもやっぱり「ヤバイな」と思っている。
 その時、風邪予防に、ポケットからマスクを出して、かけたんです。
 すると、マスクのひもが、眼鏡のフレームに引っかかった。
 その引っかかり方がありえない。
 眼鏡を外して、よく、みたら、

 眼鏡の片方のレンズだけが無かったんです。

次回に続く)