マンガを読みながら電車で帰還中に隣の空席に二人連れの老婦人が座る

 夜寝ているうちに風邪に突入して、寒い、のどが渇く・・・
 朝、昼と眠り続けて、夜勤だったので、夕方起きてそのまま出勤(ちょっと熱があって、ふらふらして、気持ちがいい)。
 風邪を引いたら花粉症の症状がおさまっていた・・・
 というのが3月21日の夜勤でしたが、
3月22日の夜勤くらいには、風邪はもう治ったような感じだったので、勤務終了後の朝、吉祥寺の本屋に寄る。
 マンガ五冊に対して「買いたい」と思うが所持金が無い。仕方なく一冊だけ買う。
 (カラスヤサトシ「萌道」)
 そしてますます所持金が少なくなる。
 マンガを読みながら、電車で帰還中に、隣の空席に二人連れの老婦人が座る。
 地味な服装。実に丁寧な口調。
 その会話の中に
終戦時にヒドラとパスが」
 という発言が飛び出したのでマンガをカバンにしまい、会話に聞き耳をたてる(戦後まもない頃、ヒドラとパスという巨大怪獣に追い回された話に違いない)
ヒドラもパスも、効かなかったんですよ」
「アタクシの時は、ヒドラで、拍子抜けするくらいに、すっかり治りましたが」
「それが、私のは、結核菌に耐性があって、薬物治療では治らないとお医者さんがおっしゃって」
 どうやら、ヒドラとパスとは結核菌の治療薬であったらしい。
「それで手術をなさったんですか」
「ええ、そうなんです、ほんとに」
 手術は最初、前(胸のほう)から切開する予定であったが、麻酔をかけさて開胸の段になって、背中からでないとダメとなった(それほど病根が深かった)、控え室に控える親族一同にコレコレこういう理由で背中から切開いたしますと急遽説明&了承を得、手術は成功。術後、麻酔が覚めた彼女への看護婦の「どうですか」に彼女は「すこし胸の方がやはり突っ張ったような気が致します」と答えたところ、いや実はそうでない、アナタには背中の方からメスを入れさせて頂いたのです、と、いわれて初めて「急にワタクシなんだか背中が痛いような気持ちになりまして」
 そこで電車が御茶ノ水駅についた。
 乗り換えのため、電車を降りる私。二人の老婦人も電車を降りる。
 その日は快晴。空が青い。
 老婆達は、私と同じ方向に行くようだ。
 彼女達はプラットフォームの秋葉原方面の方の、端に端に移動していく。何となく会話の続きが気になった私は、同様に端に端に移動しようとしたが、ちょうど目の前、向こう側のプラットフォームに、十四、五人の、たぶん、中学生くらいの男女、楽器ケースを持っていたからおそらくブラスバンド部、が、真っ白いシャツに黒い蝶ネクタイを全員していて、それが、だらだら〜とこちらを向いて並んで立っている。
 それが、ものすごく、間抜け面にみえたんだ。全員が。
 青い空。白いシャツに黒の蝶ネクタイ。間抜け面。

 その、文科系男子&女子中学生集団を見て、私は、何だか、心底、
「どうでもいいや」
 という気持ちになり、二人の老婦人の会話を、追いかけるのを止めた。

 そんなふうにして、私は、3月23日の快晴を満喫したのであった。以上。