前世を語られた男

※題名及び文章を修正(2008/1/19)

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 椅子に浅からず深からず腰掛けた和服の男は、膝の上に重ね合わせた手に力を入れもせず抜きもせず

「あなたの前世は」

 と語りかけながらも、まるでメトロノームで測ったように一定の間隔をおいて、顔面に笑顔を浮かべるのだった。その「笑まれるタイミング」は、小学校の音楽の時間でカスタネットを叩く時に教師の口から流れ出ていた「ウン、タン、タン、ウン、タン、タン、ウン、タン、タン」のウン(休み)のようだ、と義男は思った。笑顔、顔、顔、笑顔、顔、顔、笑顔、顔、顔・・・・・・・・・
 何度目かのウン(笑顔)がタン(顔)に切り替わる刹那、和服の男は、義男の背後をちらりと見、それからすぐにまた義男にまなざしを戻してから言葉を続けた。

「お父さんの精子なの」

 義男をじっと見据えたまま、噛んで含めるように顔は繰り返した。

「あなたの前世は、あなたのお父さんの、精子なの」

 義男の表情の変化を見守りながら和服男は語り続けた。

「その、精子でいらした方々は、魂的にとても立派な、位の高い存在、だったのね。ですけれどもいろんな不幸な出来事があって、最終的には、お互い殺しあう、ような最期をむかえられた。その方々が、今、あなたを、あなたの背後から、守護しておられるの」

 「るの」と言い終わるか終わらないかのうちに、和服男の隣席に黙座していた老人が、突然、口を開き、かすれた声をしぼり出した。

「三億いるわよ」